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小説『定価のない本』門井慶喜著|感想とポイント

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門井慶喜さんは、近代の歴史や文化に強いイメージがあります。

この本も、戦後の古本店主が日本の文化を守る姿が描かれていました。

ストーリー

昭和21年、戦後の神田神保町の古本街

芳松が死んでいるところからこの物語は始まる。

この芳松が亡くなった原因は、

古本の書庫の本が雪崩落ちたことによる圧死

芳松の兄貴分にあたる琴岡庄司

この事件が不可解なことがわかり始めた矢先に、

GHQに謎の指令を授けられ

半強制であり、背に腹は代えられない状況にあって

その指令をうける。

そこから、芳松の不可解な死と庄司の「古典籍」との関係や係わりを

追いかけて行くというミステリ。

GHQは日本の「古典籍」をどう扱おうとしているのか。

庄司や古書店主は日本の文化を思想を守ることができるのか。

というのが大きな流れの物語。

内容(「BOOK」データベースより)

神田神保町―江戸時代より旗本の屋敷地としてその歴史は始まり、明治期は多くの学校がひしめく文化的な学生街に、そして大正十二年の関東大震災を契機に古書の街として発展してきたこの地は、終戦から一年が経ち復興を遂げつつあった。
活気をとり戻した街の一隅で、ある日ひとりの古書店主が人知れずこの世を去る。
男は崩落した古書の山に圧し潰されており、あたかも商売道具に殺されたかのような皮肉な最期を迎えた。
古くから付き合いがあった男を悼み、同じく古書店主である琴岡庄治は事後処理を引き受けるが、間もなく事故現場では不可解な点が見付かる。
行方を眩ました被害者の妻、注文帳に残された謎の名前―さらには彼の周囲でも奇怪な事件が起こるなか、古書店主の死をめぐる探偵行は、やがて戦後日本の闇に潜む陰謀を炙りだしていく。直木賞作家の真骨頂と言うべき長編ミステリ。
 
出典:Amazon 定価のない本

 



門井慶喜氏が表現したかったことは

物語は芳松の死因とGHQとの関係、スパイ疑惑、芳松の妻タカの死、

そして古典籍がどうして結びついて行くのかが焦点になっているんだけれど、

私は物語、ストーリーの面白さというよりも

門井さんがこの本をどうして書きたかったのかを考えてみた。

1、「古典籍」とは何か。を世に周知させたかった

 正直、私は「古典籍」という言葉は初めて知ったし、書籍名がたくさん紹介されていますが

 全く知らなかったし、興味も持たなかった。ほぼ目で追いかけるだけでスルーする状態。

 しかし、門井氏はそれでもこれらの存在を世に知らしめたのだと思いました。

 (博物館や資料館や大きな図書館には大切に保存されているとは思いますが)

2、「ダスト・クリーナー」という言葉を通じて戦争観、歴史観を表現

 本書の中に「ダスト・クリーナー」という日本の曲がった思想が戦争を引き起こしたとGHQは考えており、その思想を「粉塵除去」させる意味で使われている言葉ですが、

 門井氏が考える歴史観、天皇に対する日本人の思想、そして戦争観が見えるような気がします。

3、「古典」についての考え方

  エピローグで出てくる「古典」の考え方が印象的だった。

  今では誰もが、古典は当たり前のように読めると思っている。

  水が飲めるように、「そこにあるもの」だと思っているがそうではない

  誰かが一生懸命努力して「のこしている」ものであると

 

本書の流れの中で門井さんの主張したいことが随所に出てくる。

そこを読み取っていくことが、

本書の面白いところだと感じています。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

門井/慶喜
1971年群馬県生まれ。同志社大学卒。
2003年「キッドナッパーズ」で第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞、06年に最初の著書となる『天才たちの値段』を刊行する。
16年『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』が第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を、18年『銀河鉄道の父』が第158回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出典:Amazon 定価のない本



岩崎邸と太宰治

門井氏らしさが出ているのは、

レトロ建築を登場させているところ。

(門井さんは近代建築の専門家だと私は思っています)

今回は三菱財閥が所有していた岩崎邸がその建物だが

ネットで調べてみるとなんと素晴らしい。

出典:wikipedia 旧岩崎邸庭園

確かに、過去にはGHQも使用しているし、

撞球場(ビリヤード場)も備えている。

読後にこういったことを調べてみるのも2度おいしいですね。

それから、太宰治津島修治)が唐突に出てくるのも

門井さんの遊びが感じられます。

今思うと、青森県五所川原が出てくるのも、

最初から太宰を登場させるための伏線でしたね。

まとめ

この作品は、読後は“地味な作品だな”と思った。

タイトル「定価のない本」からして地味。

(とてもミステリ書とは思わない)(笑)

舞台が古書街、死因が古書落下の圧死、

全体的には古典籍の話、

謎解きもピリッとした話ではなく、

あくまでも庄司の考え方を披露しただけ。

ミステリと大きく表出しているけれど、

そこに期待していると少しがっかりするかも。

それよりも、この本の面白さは、

門井氏の知識や知性の豊富さ、歴史観、古いものへの愛着

を愉しむことがポイントじゃないかなと思ったりします。

私は門井氏の作品を幾冊か読んでいますが、

いつも同じような感想を持ちます。

不思議に次の作品も読んじゃうんですよね。

何か得るものが多いからだと思います。

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